日照権とは?トラブル事例と判例、トラブル防止方法を解説

日照権

日照権とは、建築物に与えられた日当たり確保の権利を指します。正式な権利名ではありませんが、建築基準法に定められている斜線制限・日影規制・絶対高さの制限などをもとに、この名が使われるようになりました。本記事では日照権とは何か、受忍限度についてやトラブル事例、トラブル対策を解説します。

日照権とは|建築基準法上の制限

日照権は建築物の日当たり確保における権利です。ただ、法律で定められている正式な権利名ではありません。ここでは、日照権を保護するため建築基準法で規制されている斜線制限、日影規制、絶対高さの制限について解説します。

【斜線制限1】隣地斜線制限
隣地斜線制限は、隣地の建築物の日照や通風を確保するために設けられた制限です。高さ20mもしくは31mを超える部分が、隣地境界線までの距離の1.25倍もしくは2.5倍以下になるよう、建物の高さが規制されます。

主にマンション、オフィスビルが建設される場合にこの規制が発生します。第一種・第二種低層住居専用地域では絶対高さの制限が適用されるため、隣地斜線制限は適用されません。絶対高さの制限についてはこの後解説します。

【斜線制限2】道路斜線制限
道路斜線制限は、道路を挟んで反対側に位置する建築物の日照・通風を確保することを目的とした制限です。道路反対側の境界線から上向きに一定勾配で引いた斜線よりも低くなるように建築しなければなりません。

【斜線制限3】北側斜線制限
北側斜線制限は、北側の隣地にある建物の日照や通風の確保が目的です。第一種・第二種低層住居専用地域、第一種・第二種中高層住居専用地域で規制されています。北側隣地の境界線から高さ5mもしくは10mで一定勾配の斜線範囲内に建てる必要があります。

日影規制
日影規制は、冬至の日を基準に日陰を一定時間以上作らないよう建築物の高さを制限する規制です。時間は午前8時から午後4時まで(北海道は午前9時から午後3時まで)日照を確保するように規制されています。

絶対高さの制限
第一種・第二種低層住居専用地域、田園住居地域では建物の高さを10mまたは12mに制限されており、これを絶対高さの制限といいます。

容積率に関わらずこの高さを超えることはできません。ただし周囲に広い公園や空き地などがあると、例外として緩和措置が受けられることもあります。

日照権における受忍限度

受忍限度は我慢すべき範囲の限度のことです。建築基準法の制限や規制を守っていても、受忍限度を逸脱していれば日照権の侵害になる場合があります。ここでは受忍限度とその基準について解説します。

受忍限度とは
受忍限度は、社会生活を送る上で我慢すべきとされる範囲の限度です。法律では基準が明記されておらず、自治体によって基準が設けられていて、事案に応じて受忍限度を超えているかどうかの判断がされます。

受忍限度の基準
受忍限度はおおよそ以下の基準で判断されています。

・日光がどれくらいの時間・範囲で遮られているか
・先に在住していた方はどちらか
・その地域がどんな環境か(住宅街・商業地域など)
・建築基準法に違反しているか
・実際に発生している具体的な被害
・加害者の態度に問題はあるか(防止措置をしなかった・交渉時に一方的な態度を取ったなど)

【判例別】日照権をめぐるトラブル事例・判例

日照権侵害が認められるかは、主に受忍限度が争点になっています。ここでは新築住宅やマンションによって日照権トラブルになった事例・判例を紹介します。

1. 新築住宅によって南側の日当たりが悪くなった
自宅の南側に新築住宅が建設されることになり、日照権を工事業者に訴えたところ違法にならないと回答がされたにも関わらず、建築終了後に2階の一部にしか採光が取れなくなった事例があります。

日照権は主に受忍限度が侵害の基準になるので、日当たりが悪くなってからすぐに侵害を成立させることは難しいです。特に建築基準法違反が見られない場合に侵害を認められることがさらに難しくなります。

2. マンションの建設による日照権の侵害
東京都世田谷区のマンション建築による日照権侵害で、近隣住民が建設会社に損害賠償請求、建築工事の差し止めを請求した判例です。裁判所は受忍限度を超えた日照権侵害だと認め、被告である建設会社に損害賠償金の支払いと各建物の地盤面から20mを超える部分を撤去するよう命じました。

同じような判例で、日照権侵害が認められなかったケースもあります。京都府に建てられたマンションに日照権侵害を訴え、販売会社と建設会社に損害賠償請求、斜線部の除去を請求しました。しかしこのとき裁判所は、受忍限度を超えていないと判断しました。

3. 太陽光発電で得ていた売電量が減少
隣地に新築住宅が建ったことで、太陽光発電で得ていた売電量が年平均45%も減少したため、住宅を建てた被告側に損害賠償を請求した判例もあります。これに対し裁判所は、以下の理由で原告の主張を認めませんでした。

一つは被告側に建築基準法などの違反がないこと、もう一つは原告側の持つ太陽光発電のシステムの高さが一般的なものに比べて低い2.5mのものであったことが日照権の侵害と認められなかった理由でした。

一戸建て建築時にできる日照権トラブル防止方法

一戸建てを建築するときは周囲の家の日照に配慮した設計にしたり、近隣住民に気を配って施工をしてくれる会社を選んだりすることが大切です。ここでは一戸建て建築時の日照権トラブル防止方法を紹介します。

周囲の家の日照に配慮した設計を考える
日照権の侵害は一戸建て住宅を建てる際も起こりえます。建築時は近隣住民にも迷惑をかけないよう、日照に関する配慮をしましょう。できる限りの努力を行ったことが証明できるようにしておくと、建築後に近隣住民から日照権についての相談があったときの主張に役立つためおすすめです。

一戸建て建築時には建築基準法を遵守し、周囲の家の日照やお互いに快適に過ごせるよう配慮した設計を考えましょう。

周囲の家にも気を配って施工を進めてくれる会社を選ぶ
日照権トラブルを避けるには、近隣住民に十分な説明をしてくれるような施工会社を選ぶことも重要です。

事前説明を十分に行ったり近隣住民との丁寧なコミュニケーションを行ったりするとトラブルにつながるリスクが軽減されるでしょう。その会社が工事している現場を見てどのように施工を進めているかを確認すると、会社の信頼性を判断できます。

自分が日照権の侵害を訴えるときの手順

日照権侵害が考えられる場合は、すぐに裁判を起こさず近隣住民と連携して施工会社などと話し合いましょう。ここでは、日照権侵害を訴えるときの手順を解説します。

1. 他に侵害されている人々と連携する
まずは自分の他に侵害されている人を見つけて連携します。多くの人が日照権を侵害されていると主張することで、個人で訴えるよりも理解を得られやすくなるためです。

2. 施主・施工会社と冷静に話し合う
次に日照権に配慮してもらえるよう、施主・施工会社と冷静な話し合いをして当事者間での解決を目指します。施工前であれば、日照権が侵害される可能性を回避できるかもしれません。

3. 話し合いが平行線になる場合は行政に相談する
話し合いで解決するのが難しい場合は行政に相談するのがおすすめです。自治体の建築指導課に相談すると、建築紛争調整による支援が受けられます。日照権が侵害されていると認められれば行政指導が入り、施工会社が対応してくれる可能性が高くなります。

4. 場合によっては弁護士にも相談する
日照権侵害の主張ができるのか知りたいときや裁判所の手続きが必要なときは弁護士に相談してみてください。損害賠償請求についても具体的なアドバイスがもらえます。

民事調停の場合は訴訟に比べて費用が低額で手続きも簡単に行えます。2〜3回の調停期日で円満に解決することが多い傾向です。

5. 建築工事続行禁止の仮処分を申し立てる
交渉や調停を行っている間も、該当の建築物の建設は進んでいきます。工事を中止してほしい場合は、裁判所に建築工事続行禁止の仮処分を申し立てましょう。仮処分が認められれば日照権侵害の問題が解決するまで工事を止められます。

万が一の日照権トラブルに備えて知識をつけておこう

日照権は、誰もが快適に過ごすために守られるべき当たり前の権利です。一戸建てを建てる際は、隣家の日照権に気を配りながら、トラブルのないスムーズな建築を目指しましょう。

建築基準法による制限、規制や受忍限度を知識として持って、万が一の日照権トラブルに備えておくことをおすすめします。

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